正統派の非破壊検査

まさにこの歴史的都市で欧州統合の枠組みを決めるローマ条約が調印された。
一九五七年三月のことである。 欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)に続いて欧州経済共同体(EEC)、欧州H子力共同体(ユーラトム)を創設する。
ローマ条約調印から五十年。 EUは深化と拡大を遂げてきた。
冷戦後の多極世界で役回りは一層重要になっている。 老いた名脇役ではなくグローバル時代の新しい主役としてである。
ドル本位の国際通貨システムが戦後初めて塗り替えられようとしている。 欧州単一通貨ユーロケットが採用されたのは、ユーロの存在感が高まったからでもある。
「欧州の危機」にばかり目を奪われるのではなく、次なる挑戦にこそ目をこらさなければならない。 それがわずか八年間で様変わりだ。

ユーロは欧州域内通貨にとどまらず、国際通貨としての立場を強めている。 世界の債券市場では二○○六年も前年に続きユーロ建て債の発行残高がドル建て債を上回った。
市中流通量ではユーロ紙幣はドル紙幣を上回り、偽ユーロ防止が急務になっている。 各国通貨当局は外貨準備のユーロ・シフトを徐々に進めており、それが構造的なユーロ高地球温暖化防止でEUは世界の先頭に立つ。
ポスト京都議定書の枠組み作りでEU基準の排出権取引を広げようとしている。 市場を介して企業の排出削減意欲を刺激しようというこの構想に米国内にも同調する動きが出てきた。
カリフォルニア州はEU基準に連動する方針だし、有力企業もこの方式を支持している。 米欧が連合すれば、途上国も含めてEU基準がポスト京都議定書のグローバル基準になる可能性が強まる。
ユーロも通じる。 九九年にユーロが登場する直前まで日米の経済専門家の間には「単一通貨などできるのか」という懐疑論が根強かった。
欧州内でも「ユーロはドルのジュニアパートナーだ」という控えめな多く、「ドルのライバルになる」(ドイツ連銀のT元総裁)と言いいる。 各国通担の背景にある。
シフトはEUへの信認の高まりを示している。 それはEU基準のグローバル基準化に見方が多く、ドルのきる人は少なかった。

M独首相は今年六月の主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で地球温暖化防止を主要議題にする方針である。 今世紀最大の地球の課題である温暖化で、ピッチで進んだ。
欧州統合の父、Jもローマ条約を起案したAもEUがここまで影響力をもっとは予想していなかったはずだ。 欧州統合を先導したMは「欧州諸国は小さくなりすぎた。
現在の米国、ソ連にも、将来の中国、インドにも見劣りする」と訴えた。 Sは報告で「欧州は対外的地位を弱め、分裂で発展力を失った」と述べている。
欧州衰退への強い危機感が欧州統合へのバネになった。 ではなぜ、EUは深化と拡大を遂げ影響力をもつに至ったのか。
第一に、冷戦の終結という追い風が吹いた。
米ソ緊張の舞台になった冷戦末期の欧州は、米核ミサイル配備と反核運動の高まりのなかで「ユーロ・ペシミズム」(悲観主義)が広がり、欧州統合も停滞した。
冷戦終結がEUをよみがえらせた。 ユーロの創設は東西ドイツ統一の代償としてC首相が受け入れたものだ。
「ユーロは戦争和かの問題」という認識からである。 東西の壁が取り払われたことで、EUの東方拡大は急明になる。
第二に、冷戦後の世界の多極化である。
グローバル経済化のもとで中国、インドの台頭はめざましい。
その一方で、イラク戦争をめぐる混迷でB米大統領は孤立し超大国の威信は傷ついた。 EUの存在感は相対的に高まった。
第三に、世界がソフトパワーを競うなかでEUの強みが表れた。 文化、外交、構想力、提案力などソフトパワーは欧州統合への過程で磨きをかけられた。
ソフトパワーEUが大帝国をめざすことはないし、ローマ帝国が崩壊したときのように内部から崩壊することも考えられない。 そんなEUに日本はどう向き合うか。

日本外交が日米同盟を基軸にし、アジアとの連携を強化するのは当然である。 同時に、国際世論を左右するEUの動向に目をこらさないと、国際社会の展開を見誤る。
成熟した民主国家連合であるEUに日本が学ぶことは多い。 ソフトパワーの源泉である伝統文化を大切にするが、同時に変革への政治的意思は固く、互いに改革のプレッシャーをかけ合う。
欧州統合は「変わらないために変わる」過程だといっていい。 「ローマは一日にして成らず」と同様に、「ユーロも一日にして成らず」である。
壮大な政治目標を明示し、具体的な戦略を立て、粘り強く実行していく。 ローマ条約調印五十年に、欧州の人々が刻んだ気の遠くなるような時間を思う。
うに思える。 英国と欧州大陸を結ぶ列車「ユーロスター」に乗るたびに思うことがある。
列車がドーバー海峡のトンネルにもぐるあたりである。 かりに国際世論に中心地というものがあるとしたら、このあたりではないかという思いである。
米国寄りの英国に対して、独仏など欧州大陸の考え方は微妙に違う。 ドーバー海峡が大きく広がったと思われたのがイラク戦争だった。

そのドーバー海峡がこのところ狭くなっているようにみえる。 地球温暖化などをめぐって、英独仏がEUとして結束しグローバル社会への発言力を強めている。
EU首脳会議が憲法条約の修正でぎりぎりのところで合意したのもEUの求心力を物語る。 「欧州の時代」がよみがえったよS英首相の時代、EUの前身であるECの首脳会議は決裂も珍しくなかった。
首脳会議がもめたあげくの深夜の記者会見で、S首相が閣僚をしかりつけた場面を思い出す。 その怒気に記者団が一瞬、凍り付いたものだ。
冷戦の末期、欧州はくすんでいた。 そこは米ソの核ミサイルが対時する国際緊張の舞台だった。
欧州経済は低迷し通貨危機の温床になっていた。 あの時代に比べて、拡大と深化を遂げたEUには、ただでは壊れないパワーがある。
ブラウン氏への交代を目前にして、B英首相は共通外交政策でEUへの最後の抵抗を試みたが、もともと親EUだけにS首相のような決裂まで念頭になかったはずだ。 EUの信認は、ユーロの信認に表れている。

フランクフルトの中心街にあるECB。 いま世界で最も注目されるC銀行だ。
ECBの出方しだいで世界の金利動向が決まる。 T総裁の存在感はかつてのGFRB議長にも匹敵する。
だからフランクフルトもうでは引きった。 そのECB本部で会ったビニスマギ専務理事はユーロの信認に自信をもっていた。
ユーロは国際基軸通貨としてドルのライバルになるだろうかなどと未来形で聞くのは愚問らしい。 「すでにそうなっている」と低く答えた。
「なにもECBがそう促しているわけではなく、市場が決めているのだ」という。 ユーロは紙幣の流通でドルを上回り、国際債券市場の残高でもドルをしのぎ、外貨準備の比率も着実に上がっている。
そのユーロに周辺の非加盟国通貨も連動し欧州全域に「大ユーロ圏」が出来上がっている。 ロンドン・シティーを抱える英国もその大ユーロ圏だという説もある。
最近のユーロ高に、欧州の産業界はさぞ不満だろうと思うとそうでもない。


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